カリソメだけど愛してほしい

徒然なる日々をつらつらと綴っています。

長靴をはいた猫

 

どの媒体にも挙げたことはなかったのですが 実は 我が家で 猫を飼っています。我が家というのは やや語弊がありますね。母にも内緒で 主にベッドの下でひっそりと飼育しています。時期はと言いますと ちょうどコロナが流行りだした 昨年の春頃からでしょうか。

 

散歩がてら 街を闊歩しておりますと 渋谷の高架下の辺り 私が次の一歩を踏み出す場所に やけに大きく統一されがちなAmazonダンボール箱に ほんの手のひらサイズの子猫が居りました。顔はミィヤ(私が小学生の時分 通学路で戯れていた 大変人懐っこい猫)に似て ミルクティー色の非常な美形でありました。これは 連れて帰らねば いかんやろ。と謎の責任感に囚われ 箱ごとマンションへ持ち帰りました。

 

家に戻り 幾分か経ち 冷静になると 私は猫を飼ったことなど 一度もないことに気がつきました。やはり 飼うかどうか非常に迷ったのですが それでも ヤツのつぶら過ぎる瞳を見ていると そんなこと愛のチカラでなんとかしてやる!という心持ちになりました。

 

まずは 名付けからいくとして 名はとりあえず ベカヌコとすることに致しました。これは怠惰などではありません。猫の呼び名を変形させた ヌッコの派生系的発想に 赤べこのベコを足したものだと思われがちですが こいつの名前は "別格!可愛すぎて沼すぎるネコ!"の略称です。

 

先刻 ベッドの下で飼育していると申しましたが もちろん いつもそんな狭いとこに追いやる訳にもいきません。ですから 母のいない暇には 部屋中 ヤツを駆け巡らせております。ヤツは非常にやんちゃで 蓋をしていないピアノの上もお構い無しで 踏み付けます。リアル猫が猫踏んじゃった弾いてみた といった所でしょうか。そこまでは 目に余るほどではない暴れ具合ですが 一番困ったことは 爪研ぎでございます。私の部屋は 防音になっていて 壁が程よい柔らかさなのでしょう。ベカヌコの輩 一心不乱に爪を研いで研いで研ぎまくるのです。このマンションは賃貸です。勘弁してくれや。

 

大変に世話の焼けるヤツですが そこがまた堪らん可愛さなのだということに 日々気付かされます。コチラが相手をしてほしい時に 知らんぷりされるというのは 犬飼育歴12年の私には あまりにもセンセーショナルな出来事で 最初は慣れなかったのですが 今やそこに癒しさえ感じます。あな愛し。

 

しかし そんな毎日も唐突に終わりを告げるのです。ある よく晴れた日 そこそこの大きさになったベカヌコをベッド下から出そうと 身を屈め ヤツの縄張りを覗いてみると そこには何も居りませんでした。やばい?リビングに逃げちゃった?母はまだ出勤前?まさか窓開いてたらどうしよ?此処は8階だ?と寝起きの頭をフル回転させたのですが 思い当たる節はありません。ただ黙々と時間は過ぎていきます。沈黙に耐えきれなくなり 家を飛び出すと 私の脚は怒涛の水を受けた水車の如く 滑らかに走り出しました。どのくらい 走ったのだろうか。気が付くと私は 見知らぬ公園の見知らぬ芝生で 体育座りをしていました。空は何故か夕焼けて 濁ったゼリーのようにヌメヌメとしていたのを覚えています。

 

すると その時 背後にただならぬ気配を感じました。振り返るとそこには 赤い長靴を履き 仁王立ちをしたベカヌコが居たのです。余った前脚は器用にも 腕組みの形を取っています。ヤツは いつものやんちゃな様子とは 打って変わって 大人びたというか やや人間じみた表情で ニカッと歯を剥き出しにしました。あまりにも ツッコミどころが多すぎて 混乱した私は伝わらないとわかっているのに ベカヌコへ話しかけていました。

 

私:「おい!お前!どこ行ってたんだよ!心配したじゃないか!てか 雨が降っていない日に 長靴なんて履くんじゃありません!仁王立ちも 人を不快にさせるんだからね!やめ給え!早くおうち帰って ちゅ〜るの時間にするよ!」

 

いくらかしおらしく 左前脚の肉球を舐めながら コチラの話を伺っていたベカヌコでしたが やがて また人間味を帯びた表情に戻ると

 

ベカヌコ:「おまんはよぉ。やることやらねば いかんとです。毎日毎日 怠惰に過ごしとったら あかんだに。世話焼かせてやったのは わだすの優しさといったとこやいびーな。ほんに てめぇも大人になれよ。おいら 楽しみにしてんだから。ん。時間やな。んだば おいどんは ここらでおさらばだぎゃ。ほんなら またいつかだにゃー。」

 

非常に奇天烈な日本語の長台詞で 流暢にそう告げると ベカヌコは赤い長靴をはいたまま ゼリー状の空に吸い上げられて行きました。その後のことは よく覚えておりません。ただ なんとなく握りしめていた右拳に違和感を覚え 広げてみると そこには 猫の髭をアロンアルファでくっ付けて 三角形にしたであろうものが 張り付いていました。いや本当に なんとも不思議な体験でありましたとさ。めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

勿論 皆さんお気付きの通り

全部嘘です。あー猫飼いたぁ。